「多くの人はサイケデリックなトリップと、それが齎す強烈な結果に対して準備が出来ていないと思う」ロシアのサイケ/ストーナー・トリオThe Re-stonedインタビュー

ロシアよりFuzzと愛をこめて。
水晶の煌めきと紫煙の靄の中で儀式を執り行うシャーマンたち。それがThe Re-stonedだ。
2012年に3枚目となるアルバムPlasmaをリリース。昨年はウェールズのサイケ/スペース・ロックバンドSendelicaのメンバーとのスタジオ・セッションを収録したRe-session V.2を発表するなど、Doom/Stoner不毛の地と言えるロシアで精力的に活動している。
バンドの歴史、ロシアのDoom/Stoner事情、そして今後について、バンドのギタリストであり、核であるIlya Lipkinに話を聞いた。

――Hi! 応じて頂きありがとうございます。初めに、The Re-stonedの歴史を教えてください。

Ilya Lipkin(以下IL)
Hello! バンドは2008年の8月にスタートした。実は、ここに至るまでは長い道のりだったんだ。95年から多くのグループ、様々なスタイル(ハードコアからデス・メタル、ダーク・フォークからフュージョン)でギターを弾いてきた。

8月にReturnという曲のデモをレコーディングしたら、驚いた事に、俺の友人たちがすごく気に入ってくれてね。グループを結成するアイディアが生まれた。友人や愛する人のサポートが無かったら、俺はスロー・スターターかもしれないな。それから、ライブをやるアイディアが生まれて、俺はベーシストとドラマーを探し始めた。俺の古い知人、Vladimir NikulinとAndrey Pankratovが最初のリズム・セクションだよ。彼らはその頃、いくつか別のプロジェクトでプレイしていた。俺たちは最初のライブをやって、それからファーストEP(※1)をレコーディングした。

(※1) Return to the Reptiles 2009年リリース。


活動開始当初のバンドの姿。

――The Re-stonedの現在のラインナップを教えてください。

IL
2013年からAlexander Romanov(bass-guitar)とAlexey Volnov(drums)がThe Re-stonedの新たなリズム・セクションだけど、新しいアルバム(現在リリースに向けて準備中)ではVladimir Muchnovが叩いている。彼はAnalog(※2)でもレコーディングに参加している。ヴォーカルは俺の妻、Veronika Martynovaが時々ヘルプしてくれている。

(※2) Analog 2011年リリース。


――The Re-stonedを聴いたことが無い読者のために、どんなサウンドか説明していただけますか?

IL
The Re-stonedはサイケデリック・ストーナー・ロック・パワートリオ(guitar, bass and drums)だ。ラインナップについてはいつも自由に考えている。時々、ヴォーカルも入れるが、基本的にはインストゥルメンタルだ。アルバムによってサウンドは異なる。ハードなものもあれば、アトモスフェリックなものもある。考え抜かれた構成の曲やジャムをやっているよ。

――あなたはどこ出身ですか? The Re-stonedの現在の拠点は?

IL
俺たちはロシアのモスクワ出身だ。

――ロシアのDoom/Stoner Rockシーンについて説明していただけますか?もし好きなバンドがいたら、いくつか名前を挙げてください。

IL
難しい質問だな。俺たちの国で音楽を作るのは容易じゃない。常になんの報酬も無いまま、自分がやっていることのファンでいなければならない。だから、バンドは長続きしない。状況は年々キツくなっている。

素晴らしいバンドはいるよ。俺たちはBrand Band, The Grand Astoria, Without God, Reserve De Marcheと一緒にプレイした。

――どんなバンド、アーティストから影響を受けましたか?

IL
多くから影響を受けているけど、最も強く、顕著なのは、Black Sabbath, Jimy Hendrix, Led Zeppelin, King Crimson。

――Re-session V.2のリリースおめでとうございます。どのようにして実現したのですか? やってみてどうでした?

IL
ありがとう! リリースは後だけど、Re-session V.2(※3)はPlasmaより前にレコーディングしたんだ。ウェールズのSendelicaのロシア・ツアーの時に俺たちは何度か一緒にギグをやって、PeteとGlenにスタジオでのジャム・セッションをレコーディングしないかって提案した。マテリアルはなにも用意していなくて、俺たちはただスタジオに入ってプレイした。とても興味深い経験だったよ。彼らには彼らのスタイル、文化があるからね。

(※3) Re-session V.2 2012年リリース。

Re-Session V.2で聴けるのは、その時レコーディングしたのと全く同じジャムではないんだ。俺は自分のスタジオでギターとエフェクトの追加をレコーディングして、多くを編集したから、純粋なジャムではない。
俺たちはPeteと、マテリアルを二つのパートに分けて、それぞれのグループ名義で好きにリリースできることで合意した。残念なことに、Peteは俺が不公平な振る舞いをして全てのマテリアルを盗んだと皆に言っているが、それは真実ではない!

この状況はとても不愉快だ。特に彼が誤った噂を広めていることにはね。

ところで、面白い事に、去年の2月にSedelica(とSurf Messengers)のベーシストGlenda PescadoとThe Restonedで一緒にギグをやったんだ。そのうち、彼とはもっと一緒にプレイすると思うよ。

――最新のスタジオ・アルバムPlasma(※4)について話しましょう。反応には満足していますか?

IL
Plasmaは俺にとって多くの意味を持っている。非常に不穏な時期にレコーディングしたんだ。俺はすべてのギター、ベース・パートをプレイして、ミックスした。ヴォーカルの入ったカバー二曲では、スタイルの枠を拡げた(アシッド・フォークにまで)。

不思議な事に、マスター・ディスクは俺の誕生日にできたんだ。良い兆しだと思ったよ。結果として、俺がヴィニールでリリースした初めてのアルバムになった。PlasmaのCDはモスクワのレーベルR.A.I.Gから、カラーと黒のヴィニールは有名なドイツのレーベルNasoni Recordsからリリースした。

(※4) Plasma 2012年リリース。

――Plasmaには二曲のカバー、Jefferson AirplaneのTodayとPink FloydのJulia dreamが収録されています。なぜこの曲を選んだのですか? 歌っているのは誰ですか?

IL
俺の妻、Veronika Martynovaが歌っている。去年、Fruits De Mer labelからリリースされるThe Holliesのトリビュート盤用にヴォーカル入りのカバーを一曲レコーディングしたんだ。今はThe Re-stonedのヴォーカル入りの新曲を準備中だよ。秘密だけど!

――どんな機材を使いましたか? レコーディングはどこで?

IL
ドラムはたまたま、モスクワにある別のスタジオでレコーディングして、ギターとベースは俺の家のスタジオで。Gibson SG Custom 1972を使った。これは俺のメイン・ギターでスタジオでのレコーディングやギグで使っている。テレキャスター(一曲で)、12弦ギター、カスタム・ベースも使った。ギター・アンプはHiwatt Hi Gain 100。

モスクワにある会社U-soundとそこのエンジニアOleg Vorokhaとの実り多い提携は語らなければいけないな。U-soundはギターのsmall batch boutique stomp boxesを作っている。俺とOlegとの友人関係は、俺のサウンドとそのクォリティに深い影響を及ぼしていると思うよ。俺たちは二つの方向で仕事をしている。俺はペダルのデザイン、時にはコンサルタントとして。Olegの作ったFuzzは、本来は俺のために作られたものだったと誇りを持って言えるよ。二つのペダルには俺のアルバム(Return to the Reptiles EPとPlasma)のデザインが使われているんだ。

あと、俺は日本のMaxonのエフェクト・ペダルが大好きでね。とても音が豊かで、新しい音楽が作りやすいんだ。

――シリアスでない質問をひとつ。stonedするのは好き?

IL
信じないかもしれないけど、その質問をしたのは君が初めてだよ、ハハ。
ギグの前は、絶対にやらない。プレイや反応に支障が出るからね。これを聞いて、みんなが俺たちの音楽に幻滅しないことを願うよ。
ギグの後は……もう長いこと、音楽と観客とのエネルギッシュなやりとりがあれば、クスリ抜きで感覚を回復するには十分なんだ。俺たちの人生における主なクスリは音楽だ(サイケデリックな体験を試したことが無いわけではないよ)。重要なのは、何故やっているかを理解することだ。多くの人はサイケデリックなトリップと、それが齎す強烈な結果に対して準備が出来ていないと思う。

――The Re-stonedのライブ体験についてどう説明されますか?

IL
前に他のインタビューでも言ったけど、ライブはミュージシャンと観客にとって、シャーマンの儀式のようなものだ。音源を聴くだけで同じように感じることは難しい。その場の状況から即興で生まれるものだからね。どのライブも異なった精神、マテリアルで、常に何らかの方法でオルタナティヴだ。また、俺たちがプレイしたジャム(去年を通して、俺たちのセットではジャムをやることが恒例になった)を、もう一度繰り返すのは困難だろう。

――日本のバンドを知っていますか?

IL
ああ、日本には素晴らしいミュージシャン、バンドが多くいるね。Boris, Church of Misery, Zeni Gevaを聴いたことがあるよ。

――2014年の予定はありますか?

IL
いつも通り、多くの予定があるよ。今は新しいスタジオ・アルバムを仕上げている。ほとんど準備出来ていて、もうすぐミキシングが始まるところだ。
いくつかヨーロッパのフェスでもプレイする。可能なら、日本にも行きたいと思っているよ!

去年から俺の友人であるアストラハン(※ロシア南部の都市)のkraut-psychedelic バンドのVesperoとプロジェクトをやっているんだ。俺のでも、彼らの音楽でもない。psychedelic, space, kraut-rockにエレクトロニックなレイヤーをミックスしたものだ。そして勿論、インストゥルメンタルだよ。今年中にアルバムを仕上げてリリースできたらと思っている。

――最後に、日本のファンへメッセージをお願いします。

IL
日本でのライブDVDをいっぱい観たよ。日本のファンは最もクレイジーでフリーキーだね! そのままでいてくれ。いつの日か君たちのためにプレイしたいよ。あと、The Re-stonedを聴いてくれ!

今日はたくさんの質問をしてくれて本当にありがとう!

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DVDムック『ペキンパー』創刊者に聞く! 川保天骨(株式会社ギョクモンエンターテイメント 代表取締役)

2013年12月10日 聞き手 ペキンパー編集部 ギョクモンエンターテイメント 事務所内

記念すべき『ペキンパー・デジタル』のインタビュー第1弾! ここはやはり『ペキンパー』を創刊した人に話を聞くしかないということで、川保天骨氏にご登場いただいた。時代に反逆する媒体の意味するものとは何か?

――毎回変わった切り口の雑誌ですが、ペキンパー創刊のきっかけは?

切り口っていうのは気にしてないね。同じことを繰り返してる感じ。

――同じこと?

ペキンパーって名前は映画監督のサム・ペキンパーからきてるのは当たり前だけど、ペキンパーっていう雑誌、ムックの企画は10年以上前から持ってて、色んな出版社に持ち込んでたんだけど、その頃から俺が関わってたエロ本とかサブカル系の出版社は企画が中々通らなくなっててね。本が売れないから。

元々、俺は編集プロダクションでカメラマンから編集、ライターとか何でもやってた。その時はエロ本でもサブカルでも何でも出せたんだけど、その頃のエロ本ってさ、白黒のページで自分の好きなこと何でも出来たんだよ。(ペキンパーは)その延長線上にある。エロ本のサブカルページのムック化というか。

表紙はメジャーな人からマニアックなものまで色々あって(前半は)そういう特集を持ってきてるけど、真ん中から半分はアレ? って企画ばかりだよね。

――本という媒体にこだわりは?

こだわりっていうか、本じゃないとできないからね。DVDで出すとなると取材じゃなくなって、コンテンツになるから、取材に制約が出るんだよね。金銭的なものとか。印刷媒体っていうのはそういう意味。これがDVDしか媒体が無い場合だと、それコンテンツでしょ? って。取材じゃなくて。これが大きい出版社の雑誌だと取材はみんなOKだけど、こういうわけのわからん媒体みたいなものに取材申し込まれてもOKでなかったりするわけですよ。

でも、そこをなんとか! っていうさ、小さい媒体だからこそ自分の人間力を試せるんだよね。大きな媒体の看板持ってきて取材するんじゃなくて、気になる人に一人の人間として聞きたいことをインタビューして掘り下げるっていうのがこの本の今置かれてる立場だね。作る側としては大変だと思うけど、面白いんじゃないかな。

――ペキンパーのコンセプトは?

バイオレンス、死、エロス、トリップ、ドラッグ、男としての悪(ワル)の部分ね。男として悪の部分に魅かれる気持ちってあるでしょ? そうじゃない男が多いから逆に突っ込んでやりたいっていう天邪鬼だね。まったく正反対のことがしたいんですよ。ただ、売れたいけどね。お金入ってくるから。お金入ってきたら嬉しいでしょ?

――そうですね(笑)。

あと女にモテたいだろ? セックスしたいだろ? ドラッグキメてトビたいだろ? みんな悪の部分。セックス自体は悪くないけど(笑)。

――ペキンパー第1号、第2号ではドゥームロックがフィーチャーされていますね。ご自身もドゥームロックバンド「太陽肛門」(※1)をやられていましたが。

それはスタッフに好きなやつがいたから。太陽肛門はドゥームロックのカテゴリに入るのか入らないのか、途中でトランスの方に行って、ヘヴィなドゥームロックはやらなくなったからね。何でかっていうと、途中で“子供っぽいな”って思っちゃったんだよね。トリップしたらさ、ドゥームも何も関係ないような、打ち込み、テクノの方がやばいってことがわかった。バンドやってたのはそういう特定のセンスがあったんだろうね。

ただ、外人の真似とかはしたくなくて、全部日本語で和製のテイストを取り入れたり、どっちかというと寺山修司とかJAシーザー、唐十郎、暗黒舞踏とかそっちの影響があって、そこにドゥームロックをミックスさせてるっていう。人間椅子みたいなもんだな。最後にはトランスが入ってきてラリるんだよ。ガンジャとかライトドラッグじゃなくて、もっとヘヴィなの。そういう世界を表現したかったんだよね。バンド活動はやめたわけじゃないけど、時間がなくて。そのうち復活させようと思ってるんだけど、ドゥームロックになるかはわからない。

ペキンパーもその路線でバイオレンス、トリップ、性的なものが混在してる媒体が作りたかった。もうひとつ「ドラゴン魂(※2)っていうムック出した事があるんだけど、それも「男」なんだよね。表紙見ればわかるけどこっちは武術とかカンフー、ヒーロー、“正義の味方”なんだよ。「ドラゴン魂」が“陽”なら「ペキンパー」は“陰”。悪の部分と善の部分、「ドラゴン魂」と「ペキンパー」両方で男を表現したいんですよ。今度「ドラゴン魂」を新たに出版するけど、これはネタ本じゃなくて、姿勢を表したくて。表紙に出てくる人たちは象徴で、本体は後半っていう意識。

(※1) 太陽肛門
川保天骨率いるドゥーム・ロック・バンド。
その名は海外にも届く。
(※2) ドラゴン魂
ブルース・リーに関するコンテンツ「ドラゴン・カルチャー」を特集するマガジン。

――ペキンパー第2号には真樹日佐夫先生の生前最後のインタビューが収められていますね。

2011年の10月ぐらいかな? 申し込んですぐOKもらって、先生に「かっこいい服着て頂けますでしょうか?」って言ったら「何でだ?」って。「先生表紙なんで……」って言ったら「えっ」て(笑)。おれは会社で重大事件が起こってインタビューできる精神状態じゃなかったんだけど、先生も体調が良くなかったのか、声ガラガラでね。 その後の忘年会でもそうで、あの時から肺が苦しかったんじゃないかな。でも先生は俺にワイン注いでくれたり、すごく細かい気遣いしてくれるんだよ。見た目が怖い反面、心遣いがあるからモテるんだなって勉強になった。それから一週間ぐらいで亡くなられて…。最後にペキンパーでロング・インタビューできたのはよかったなと思う。読者プレゼントのブロマイドにサインしてくれたり、忘年会でも紹介してくれて。先生は「ドラゴン魂」も「ペキンパー」も行ける、幅の広い人だったね。

――「ペキンパー」には映画も多く採り上げられていますが、ご自身はどんな映画がお好きですか?

日本映画が好きだね。ただ、普通の娯楽作品は見ない。つまんないのは5分ぐらいで観るの止めるね。あとはサム・ペキンパー、溝口健二、野村芳太郎、山田洋二、スピルバーグとかその辺だとコッポラが一番好きだね。ただ「ペキンパー」に映画が入ってようが入ってなかろうが俺は関係ない。ネタ的に映画入ってないとページ埋まらないでしょ。バイオレンスとかセックス、トリップの混在感がある映画があればなるほどねって。ペキンパーの映画がまさにそれだね。全部入ってる。

「わらの犬」でコイたことあるよ、俺。ダスティン・ホフマンがまんまと騙されてカモ猟に連れ出されてさ、あそこでもコケるよね。みんな家で(スーザン・ジョージを)犯してるのにさ。そういう最悪な気持ちを想像してオナニーするんだよ。

――これ文章にしていいんですか(笑)。

いいよ!

――複数のプロジェクトを抱えていらっしゃいますが、現在の状況は?

結局自分の出版社から出してるから、期限がないんですよ。そこがまだ商売としては弱いかな。本来だったら隔月とか決めてやるべきなのに。今は人材が足りないからネタも足りない。でも、やり続けるのが大事だから、すぐやめたりしない。個人が趣味でやってるわけじゃないんだからさ。会社としてやってるから。これで家族養ってるからね。

――ドラッグなど反社会的な題材も扱っていますが、批判を受けたことは?

されたことない。して欲しいけどね。みんな、ドラッグは全部悪い! って思考停止してるでしょ。そりゃ、シャブは悪いけどさ。あんなもんやめられないんだから。だから俺はやらないよ。

ただ、大麻と向精神薬と覚醒剤、みんなごちゃ混ぜにして悪と決め付けるのは逆に悪いんじゃないかな。子供なんて悪いことしたいんだから。好奇心の強いやつは小学生からあるからね。俺もそうだったけど。音楽聴く人とかは特にそういうものに魅かれるよね。ミュージシャンがやってるとかさ。そういうことが問題だね。

規制掛けるのはいい面もあるんだよね。規制掛ければ掛けられるほど、形変えてやるのがポイントだからね。エロもそうだよね。規制の中でどれだけ発展させるかっていう。日本のアダルトなんて世界の中でも独自の発達してるでしょ。バリエーションもすごいし、質も高い。洋物のポルノなんて見てられないよ?面白いものもあるけどさ。

――制限の中でこそ工夫が生まれると。

あと、ぶっ飛ぶのに資格がいると思うんだよね。意志の弱いやつはダメだよ。持ってかれちゃうでしょ。だからクソ坊主が大麻吸ってるの見ると腹立つね。ちゃんと働いてんのかって。親の金で吸ってんのかってさ~。

――「ペキンパー」の次号は? 第4号によると2014年春頃となっていますが。

どんどん出したいけど、ネタも人材もないんだよ。俺は今、他の制作が入ってるから「ペキンパー」は誰かに任せたいんですよ。もっとぶっ飛んだ雑誌にして欲しいね。こんなのありなの? って。それが命なんじゃないですか、この雑誌の。特集記事があって、あとは狂った人たちが連載してるっていうさ。素人とか読者にも書いてもらいたいし、異端芸術家みたいな人にも表れてほしいね。あとはここを軸に単行本を出せたらいいね。

俺がなんで紙媒体に拘るかっていうと、古い人間だから触れるもの、物体としての媒体に対する思い入れがあるんだよね。本が好きだから。小学生の頃から。感触、匂い、パラパラめくるっていうさ。今、それだけだね。そこにDVDが付いてもう一回楽しめるっていう。

――まさに時代に逆行するマガジンですね。

おれはエロ本の編集でドギツイのからアイドル系、サブカル系まで色々やっていたんだけど、読者と常に対決してたんだよ。本当に喧嘩していたからね。読者ハガキコーナーとかで。あなたの雑誌は二度と買いません! とか書いてくるのとか全部読者コーナーに掲載するから。いつでもかかってこい! って、おれの住所載せた時もあったな。あと、読者に会いに女優と地方行く読者参加型ね。実際会うとみんないいヤツなんだよ。ヒロイン雑誌やってたとき、読者が乗り込んできて雇ってくれっていうから雇ったこともあるよ。編集長やらしたら暴走したけど。権力持つと変貌する人間がいるという事を知ったね。

――なるほど(笑)。

大百科とかコンプリートするものじゃなくて、ムック、雑誌、続いていくのが好きなんだよ。そこに読者が入ってきて色々やったりさ。そういう媒体が作りたかった。人にどう言われるか考えると何もできなくなるから、とにかく行動して形にする。まず突っ込んでいかないと。取材対象も、「この人駄目だろうな」とか考えない。思いついたらアポ取る努力をする。 これが大きい媒体だと簡単にできたりするんだけど、こういう小さい媒体だと押しの強さがないとできない。

大きい媒体でぬるま湯に浸かっているよりさ、あれはあれで大変なんだろうけど、小さい媒体の方が人に対する取材力、アタックする力がつくと思うね。

――なるほど。それでは最後に読者にメッセージを。

女の子のモデルを募集してます!

――……協力者は?

それもだね。できれば女の子で。

――結局、そこですか(笑)

結局、女の子にしか興味ないんだよ! でも、エロ本やったら面白くないんだよね。男の雑誌だけど、男の奥には女がいるんだよ。そこが皮肉だね。俺はポルノ映画とかAVとか全然見ないもん、俺。コクのは大体、西部劇とかさ。拉致されたりするやつだろ? あと、戦場のヤバイやつとか。そういう見え隠れする性欲の方がエロイよね。

――えー、本日はありがとうございました。

川保氏の「“時代に反逆する媒体”とは、昔のエロ本の延長線だった」という言葉が印象に残る。
時代に反逆するマガジン「ペキンパー」。

表紙や特集に釣られて「ペキンパー」を読んで、困惑された方も多いのではないだろうか。
パンク、メタル、格闘技、カルト映画、アニメ、AV、トランス紀行、火炎放射器の作り方……。
まるで、アンダーグラウンド・カルチャーの闇鍋じゃないか!  だが、その“闇鍋感”こそが、この雑誌の真髄なのだ。

もし、このインタビューを読んで「ペキンパー」に参加したいと思われた方がいたら、是非連絡して欲しい。 「拒絶されるかも……」なんて考えずに、まずは行動だ!  時代に反逆し続ける! これからも「ペキンパー」をよろしくお願いします!

ロシアトランス紀行

文・川保天骨

※この記事は「ペキンパーVol.3」に掲載されていたものです。

今回の付録DVDには俺がロシアのトランスパーティーに潜入して撮影した映像が入っている。しかし、そもそもトランスパーティーって何?という人もいるだろうから、俺が自分の体験を交えてここでトランスするとは何かという事を少し書いてみます。

 

初めてのトランス体験

今から約15年前の1997年、初めて俺はトランスしたんだよ。その頃はまだインターネットも普及してないし、パソコンも一般的ではない時代だったけど、幕張メッセで行われた日本初の大規模なトランスパーティー、『オーロラサイケデリカ』には相当な数の観客が殺到していたね。当時ハードロックやメタルを好んで聴いていた典型的なロック青年としての俺はテクノ系の音楽は“打ち込み”とか呼んでバカにしてたもんだよ。あんなのはフ抜けたようなヤワな奴が聴く音楽だと思ってたからね。全く気が進まなかったけど、その時の友人Kがどうしても行こうと強引にこのパーティーに俺を連れて行った。そして俺は勧められるままに幻覚物質を服用し、その1時間後、決定的な変性意識状態を体験する事になる。

人生を変えたトランス体験!

今から思えば、この時の体験は現在俺が推し進めている『デス・エロス・トランス』というコンセプトを追求するコンテンツに大きな影響を与えていると思う。ビートルズの『サージェントペパー』や『ホワイトアルバム』を聴き込んで、さらにピンクフロイドの摩訶不思議な音世界に興味を惹きつけられていた中学から高校時代。サイケデリックという言葉に人一倍敏感な10代だった。上京してからはとにかくサイケデリックロックのCDを大量に買い込んで聴いていたな。しかし、この’97年時点で幻覚物質を摂取してのトランスを体験することにより、これまで信じていたサイケデリックの世界が全く本質ではないという事に気づいたわけだ。俺の知っていたサイケデリックは単なる知識で、なおかつその表層にすぎなかったということだよ。愕然としたね。童貞がセックスして非童貞になった時、「ああ、俺はようやく男になったのか………」なんて感慨にふける事よりもさらに重大な、まさに人生の大きな転換地点といってもいい。それぐらいインパクトが大きな体験だった。目の前で起こる膨大な幻視、そして変質した音。最初それがトランスしている状態である事に気付かなかった。幕張の壁に大写しされたCG映像の前に茫然と立ち尽くして見入っていた時、誰か知らないが女性が近づいてきて、「大丈夫ですか?」と聞いてくる。俺は何も答えられなかった。言葉を失っているのだ。その時、頭の中で「ドカーン」という音がした。俺はトランスしてるんだ!これがトランスというものか!サイケデリックというものは!トリップするという事は!この状態の事なのだ!と悟るわけ。

この時、付き合っていた女もこのパーティーに同行していたのだが、俺と同じ幻覚物質を摂取した後、会場内で俺とはぐれ、一人で椅子に座っていた時、昏倒し、そのまま救護室に運ばれていたらしい。その頃、携帯電話もなく、俺は会場をトランスした状態で彼女を探していたのだが、途中で誰を探しているかもわからないような意識状態、まさに夢の中だ。それでもようやく救護室にいる事が発覚し、俺はトランスした状態で救護室に入った。ベット上に亡霊のような顔をして横たわる俺の彼女を観た瞬間、頭の中で再び爆発音が鳴った。俺はヤバイ!と思い便所に駆け込む。そして口に手を突っ込みゲロを吐こうとした。この幻覚状態から抜け出さないとまずい!という意識が働いていたのだ。おそらく、酒を飲んで酩酊した時に、吐くと多少なりとも意識が戻る事があるが、この時も吐けば少しは意識が正常になると思っていたのだろう。しかし口から飛び散る胃液がすべて星屑のようにキラキラ光る。たまらず目を閉じると真っ白なミルクの海が見え、何百、何千もの目玉がその海から飛び出してくるアニメーションを観る。その後真っ赤な空を飛ぶ幻覚。向こうの方に巨大な黄金の大仏を見る。俺はベットに横たわる女のそばに行き、「ダメだ」となんとか言った。女は虚空を見つめたまま何も語らず。そして「大丈夫か?」と聞くと首を縦に振る。「大丈夫………」こういう夢の中にいるようなトランス状態でも意識はありありとある。酒を飲んで酔っ払うと記憶さえも曖昧で、時には完全に記憶喪失状態になるものだが、トランス状態では記憶が鮮明だ。俺はその時「まあ、大丈夫だろう。救護室だし………」とかなりいい加減な判断をし、少し肩の荷が下りたような気がして救護室から出た。居てもたってもいれなかったのだ。はやく会場に戻らないと!

 

固有の音楽的価値観よりも音の機能性に比重を置く

そして会場に再び戻り、改めてトランスの真っただ中にいる自分に気付くのだった。その時かかっていたような音楽はゴアトランス系ですこしインドの音階のようなものが使われていたと思う。しかし、もうすでに変質しているそれら音楽は、俺の知っている“音楽”ではなくなっていた。この時から俺にとっての“音楽”という概念が大きく変わっていく事になるのだが、あれは音楽などという文化的なものではなく、単にトランスを誘発させるための誘引剤としての“音”だ。トランスするための道具としての“音”の存在に俺は気付いたのだ。テクノは確かに音楽というジャンルのひとつだが、その本質は人間をトランスさせるための“道具”でしかない。音楽を鑑賞するものではなく、身体で感じる振動のようなもの。そこにあるのは音楽的芸術性ではなく、機能だ。多くの音楽ジャンルが固有のアーティストから生み出される固有の曲で成り立つのに対し、レイブやトランス系パーティーではDJによって作り出される“上げ、下げ”でしかない。それ以外むしろ必要ないと言っていいかもしれんな。実際、その後何度もトリップするような状況に自分を追い込んでいくのだが、音楽はむしろ邪魔だったよ。

バットトリップによる反動を使う

それまで自分自身を形成していた既成概念、価値観がひっくり返ってしまった俺はこの日を境に完全にアチラ側の世界に惹きつけられていく事になる。『太陽肛門』なんていうバンドもやってはいたが、もう何か茶番のような気がしてしまった。それでも音源やライブはこなしていたが、やはりもう心がバンドから離れていたことは確かだった。完全にトランスする事に関心が移っており、1か月に1回は必ずレイブに行くようになっていた。俺はトランスする事によって、丸裸の自分、俺の存在の核心部分に迫って行きたかったんだよ。

当時よく行っていたのは『イクイノックス』という300人から500人規模の大きめのパーティーで、それ以外はほとんどがイスラエル人がやっているようなアングラのパーティーだった。とにかく当時はネットがないので、情報は手のひらサイズぐらいの小さなフライヤー、もしくは口コミの情報だけだった。どういういきさつで主催者がああいうレイブをやっているのか分からなかったが、そういうキャンプ場にバカでかいスピーカーを何台も持ち込んで、大音量でトランスを流すエネルギーは今考えても凄いと思う。一度などスピーカーの前で完全に金縛り状態になった事がある。その時聴こえていたのは音ではなく、鉛のような質量をもつ物体で頭を殴られているような感覚を思えたものだ。そしてトランス状態を何度も経験してくるうちに、こういう状態でも自分の意識がしっかりあり、ある程度のコントロールが出来るということを俺は悟ったんだよ。そしてさらなる高みに上り詰めるためにありとあらゆる事をやるわけだが、ひょんなことから、一度バットに落ちると、その反動でさらにブッ飛ぶという法則を発見した。それからは意識してバットトリップをするようになったね。そのバットから抜け出る時の猛烈な上昇感を得るという事を頻繁にやるようになる。貪欲なんだね。

意志の弱い奴は近寄らないでね!

ここまで読んで、『このオッサン、ナニを言っとるのかさっぱりわからん!』という人もおるやろ。トランスした事のない人間に、トランスを説明するのはかなり難しいよ。その人の想像を超えているし、言語の世界じゃないからな。セックスした事ない人にセックスの外側、その表層を伝えることはできるかもしれないが、核心部分は伝わらないように、トランスには説明のつかない部分が多いよ。

もちろん、レイブに来ている人全部がトランスしているわけではない。トランスするのはほんの一部で、全体の10パーセントから20パーセントぐらいだろう。商業的な規模で行われるレイブは前半に有名アーティストのライブやなんかをブッキングして集客し収益を得ているわけだが、トランス目的のレイバーはそんなライブの時はまだ会場に来ていなかったりする。DJもそういう一般の客が会場を埋めている時は音楽的なテクノをかけてお茶を濁している場合が多いのだが、そういう客はだいたい深夜2時ぐらいになると自分のテントに帰って寝てしまう。そりゃあキメてないんだから当たり前だろ。眠いんだよ。俺なんかは「も~、早くライブとか終わって欲しいな~」とか思ってる口だったな。早く飛びたいんだよ。夜が明けて空が白みがかって周りが見えるようになる頃は完全に変性意識状態にいる自分、そしていつものトランス野郎たち狂ったように踊っている光景を目の当たりにするわけだ。前日に雨が降ったりして地面がぬかるんでいたりすると上半身裸でドロドロになって踊り狂う奴とかもいて、原始人の祭り状態になる。こんな事が現代に行われていいのかというような事が目の前で繰り広げられるわけだよ。

身体の調子や精神的にもベストコンディションでそういう変性意識状態にいて、ちょっとした意識コントロールが出来れば、自分が人間である事さえも忘れ、そこら辺のミミズや微生物、さらには地球そのものだった自分、そして宇宙へと還っていく意識体を確認する事も可能だよ。でも、これは誰もが出来る事ではない事は確かだ。俺は大丈夫だった。空手で鍛えてたからな!修行が足りん奴はそのまま社会復帰できない状態になるから気をつけろ!まず、会社辞める。まがいもののエクスタシーに手を出す。そのうち覚せい剤か?コカインか?死ぬか自殺!あの世で会いましょうという事になる。ワカッタカ!

ロシアのトランスパーティー映像

今回、付録のDVDに収録した映像は俺がまだ30代の半ばだった頃の映像だ。観たら分かると思うが幻覚剤は使用していない。酒を飲んで酔っ払ってパーティーに行って楽しんでいる様子だ。この時行ったロシアのパーティーはかなり商業的なもので、ホンモノではなかったが、酔っ払って行くにはちょうどいい感じだったな。かかっている音はかなり古めで、来ている人間も一般人が90パーセント。ダークトランスなど、トランス系では先進国のロシアだが、何しろそういう極秘パーティーに参加するにはそれなりの情報とコネクションが必要だろう。俺はもう20代後半以降、一切幻覚剤を摂取する事は止めた。もうあの世界の事、存分に知ってるんだからリスク犯してこれ以上見る必要もないしね。サイケデリックトランスについては、かつての記憶だけで十分。幻覚剤については、未熟な若者が調子こいてぶっ飛んで事件に巻き込まれるような事は本当に腹が立つ。エクスタシーについては俺は本当に怖いと思うよ。みんな、気をつけろよ!
今後、南米などのトランス状況には興味があるので、そういうトランス紀行を考えてもいいかなと思ってるよ。

(つづく)