2014年 インタビュー:梵天レコード
――血まみれ農夫が帰ってきた。禍々しい六本の鋤を携えて
我らは逃げることも、隠れることもできない
我らは皆、サングロイド族の女王に供される血の生贄に過ぎないのだ
――応じて頂きありがとうございます。そして、“Headless Eyes”のリリースおめでとうございます。“Blood Farmers(邦題:鮮血の美学)”から実に19年ぶりですが、今、どのように感じていますか?
Eli Brown(以下ELI)
正直言って、ようやく出せた、という安堵感だね! 多くの人がアルバムを楽しんで、受け入れてくれて本当に嬉しいよ。作業は膨大だったが、その分、みんなが気に入ってくれている。
プロジェクトの近くにいすぎると、人々の反応について伝えるのは難しいが、みんな本当に気に入ってくれている。
Dave Depraved(以下DAVE)
アルバムの評判が良くていい気分だ。何年も経っているのに、俺たちに興味を持ってくれてすごく嬉しいよ!
――アルバムのサウンドはホラーに取り憑かれた、血みどろのドゥームロックで、Blood Farmers以外の何物でもありません。あなたはまだBlood Farmersに対する明確なビジョンを持っているように思えます。スタイルを変えるぐらいなら、新しいバンドを始めるべきだと思いますか?
ELI
Blood Farmersのビジョンは、俺たちがバンドを始めた1989年、まだオリジナル曲をやる前から持っていたもので、ホラー映画とBlack Sabbathを融合させて、不気味な体験を創り出そうというDaveのコンセプトだ。 もし俺たちがサウンドを変えるとしたら、それはBlood Farmersとは呼ばれないだろう。同時に、このジャンル、そして俺たちのビジョンの中には音楽的、音響的にとても幅広い眺望があるんだ。俺たちはこのレコードでそれを証明したと考えている。ドゥームに帰するなら、どんなことでもできるんだ。すべてが血みどろではないよ!
俺が言いたいのは、かけ離れ過ぎたことだってできたんだ。例えば、もしBlood Farmersでディスコ音楽をやっていたら、うまくいかなかっただろう。
俺は他にもバンドをやっているが、勿論異なるスタイルだ。もっと時間があれば、他のジャンルの音楽も作りたいね。ディスコも含めて!
――アルバムはどこでレコーディングされたのですか? レコーディング・プロセスはどのようなものでしたか?
ELI
ニューヨークにあるStudio 584でレコーディングを開始して、ドラムとベーシック・ギターを録音した。全てが完成したのは、俺たちが週末に使用していた友達のスタジオだ。
デカいスタジオを使用する金は無かったが、ヴィンテージの機材をたくさん使えたんだ。最近のスタジオでは貴重な、本物のリバーブ・ユニットもあった。俺たちのサウンドをよりヴィンテージなものにしてくれたよ。
俺は、俺たちが考えられる限りのことをやりたかった。DAVEの作った膨大な数のトラックがそのチャンスを与えてくれた。レコーディング、ミキシングの間に出来ること、試せることをとことん追求したんだ。
ミキシング中、ずっとトラックをキープするのは大変だった。ほとんど俺のせいだけど、この作業の難点は時間が掛かり過ぎることだ。俺もDAVEも完璧主義者だから、良くない部分があるとリミックス、再録をしなければならない。
全ての作業に関われて本当に嬉しいよ。どんなバンドも、ここまでオープンな状況でレコードを作ることはできないだろう。
19年ぶりにアルバムを作れたことに今でも驚いているよ。
――デイヴィッド・ヘス(注1)のカバー、“The Road Leads to Nowhere”はこのアルバムにおけるサプライズですね。何故この曲をプレイしようと思ったのですか? この曲はBlood Farmersの新たな一面を見せてくれますね。
DAVE
ずっとこの曲をカバーしたいと思っていたんだ。俺の大好きな映画のテーマソングだからね!
『鮮血の美学』(注2)のメイキングについての本を書くときに、彼について調べなければならなかったんだ。後年、『鮮血の美学』のサウンドトラックCDを彼と一緒にプロデュースした。これは俺なりの彼へのトリビュートだよ。彼が生きている間にこの曲を聴いて欲しかったな。
Blood Farmersヴァージョンは映画のオープニング・クレジットを改編したものだが、すべてに異なったアレンジを施した。オリジナルを参照した部分もあるが、同じ音ではない……俺はもっと陰湿でサイケデリックにしたかった。
俺は他の映画音楽とフリークアウトしたギターのアレンジをやっていて、いつか発表したいと思っている。
(注1)デイヴィッド・ヘス(David Hess)。アメリカ人俳優。1942生。『真夜中の狂気』、『ヒッチハイク』などで知られる。後述の『鮮血の美学』では音楽も手掛けている。2011年、心臓発作のため逝去。
(注2)『鮮血の美学』(原題:The Last House On The Left)。ウェス・クレイヴン監督。1972年公開。TV放映時のタイトルは『白昼の暴行魔part2』。郊外に住むコリンウッド夫妻の一人娘であるマリーとその友人のフィリスが4人の男に強姦された揚句、惨殺されてしまう。やがて犯人と遭遇した夫妻は恐ろしい復讐を開始する。
不良グループのリーダーを演じたデイヴィッド・ヘスは音楽も担当。
――他の収録曲について、コメントを頂けますか?
Gut Shot
ELI
2009年の終わりごろ、DAVEから電話で、ニューヨークへ行っていくつかリフをレコーディングしたいと言われた。当時はBlood Farmersの新しいレコードを作るなんて考えはなかった。それを思いついたのは2008年に日本ツアーを行った後だよ。俺はエンジニアで、DAVEがベース、TADがドラムをプレイした。彼がこの曲をプレイし始めた時に、Blood Farmersの新しいレコードが生まれると思ったんだ。
俺はオープニングのミッドテンポのリフとラストの速いパートが大好きだ。この曲はDAVEが昔と同じぐらい、多分それ以上に優れたリフを書く事が出来ると教えてくれた。
Headless Eyes
ELI
この曲は何年か前、“Permanent Brain Damage(邦題:血まみれ農夫の侵略)”が再発された頃だったと思うけど、DAVEに“HEADLESS EYES”(未公開:1971年米)という映画をチェックした方がいいと言われたんだ。俺の大好きな奇妙で不気味なヴァイブがあって、俺たち二人ともBlood Farmersの曲にピッタリだと思った。何年か後にレコーディグを始めた時、これがタイトルトラックになると思ったね。俺たちは曲を書いて、一つにして、聴いて、それから恐らく一つのリフを残して捨てた。曲全体では異なる時期に四回書いたよ!これは今まで俺たちが作った曲の中でベストの一つだ。俺たちがどんなバンドかを完璧に捉えている。
The Creeper
ELI
この曲は俺たちが2009年に集まった時の最初のセッションをレコーディングしたものだ。俺はドラムもレコーディングしているんだ。素晴らしいヴァイブとベース・プレイがあるね。DAVEは俺より優れたミュージシャンだから、俺がベースを弾いていたらここまで良くはならなかっただろう。レコーディングの時、残りのベースは彼が弾くべきだと彼を説得したんだ。ライブでは俺が弾くけどね。
この曲でのTADのプレイも素晴らしいよ。彼はバンドに入りたがったから、自然の流れとして彼が次のドラマーになった。今までDAVEと同じぐらいホラー映画にのめり込んでいるやつが居たことがなかったから、それが大きな利点だな!
DAVE
ELIの言った通り、この曲はライブ・ジャムとしてスタートしたものだ……俺のお気に入りの一曲だよ。
Thousand Yard Stare
ELI
DAVEが曲のタイトルと、中間部冒頭の落ちて行くようなリフを思いついた。俺はトラウマから心を閉ざしてしまう状態とはどんなものかについて考えながら歌詞を書いた。多くの憂鬱な事について考えたよ。歌詞はとても憂鬱な人物を描いたものだ。
DAVE
俺たちの曲はすべて憂鬱な人物を描いたものだよ!
Night of the Sorcerers
ELI
この曲がどんな風になるのか思いつく前に、2011年のヨーロッパ・ツアーでプレイしたのはおかしな話だね。俺たちはもっとサウンドトラックのような感じにしたかったんだ。この曲のプロダクションも誇りに思っているよ。とても多くの要素が含まれているからね。俺たちの友人、Theoがキーボードで参加してくれて、多くの要素を加えてくれた。
DAVEも素晴らしいキーボードのメロディとエフェクトを加えてくれている。俺たちとは大分タイプの異なる曲だが、他の曲と並べても充分ドゥームだと思うよ。
俺たちには決まった曲の書き方は無いんだ。この曲はそのことを証明しているね。
DAVE
俺はこの曲のみんなのコラボレーションが好きだよ。とてもエピックだ。中間のパートはTADが書いた。
――DAVEはGrindhouse Releasing(注3)で働いているそうですが、今でもホラー、エクスプロイテーション映画を掘り下げているのですか?
DAVE
ああ、俺は1999年からGrindhouse Releasingで働いていて、今でも映画を愛しているよ。
俺が劇場配給に関わった作品は、『処刑軍団ザップ』、『食人族』、『人喰族』、『ブラッドピーセス/悪魔のチェーンソー』、『死霊のはらわた』、『マニアック』、『GONE WITH THE POPE』、『マニアック・コップ』、『マニアック・コップ2』、『チャールズ・マンソン』、『ゾンビ』、『AN AMERICAN HIPPIE IN ISRAEL』。MGMで『鮮血の美学』のリリースや特典映像のプロデュースにも関わっている。今は『食人族』のBlu-rayのリリースと、この国の独立系映画館への配給をプロモートしているんだ。
Grindhouse Releasingの直近のBlu-rayタイトルには、『狂ったメス』、『THE BIG GUNDOWN』、そして、呪われた60年代の映画『泳ぐひと』が含まれている。
(注3)Grindhouse Releasingはアメリカ、ハリウッドを拠点とするカルト映画レーベル。Daveは劇場配給/パブリシティを担当しているようだ。
――ミュージシャンとしてどんなバンド/アーティストに影響を受けていますか? またバンドをスタートするきっかけは何だったのでしょうか?
ELI
俺たちが初めて会った時、共通していたのはRushとBlack Sabbathだった。
俺は当時無名だったCactus, Dust, Spooky Toothといったバンドのそれなりのコレクションを持っていて、DAVEはBlue CheerのVincebus Eruptumを持っていた。
1989年当時、これらの作品はメタルの世界の連中にはクールだと思われていなかったんだ。
DAVEがSaint Vitusのアルバムを手に入れて、俺たちはたっぷりハッパを吸った。
DAVEがホラー映画をコンセプトにしたバンドでBlack Sabbathのカバーをやることを思いついて、俺が歌う事を提案した。
当時NYに住んでいたDAVEの従兄、PHILがバンドでプレイしていて、そのバンドではSabbathのカバーをやっていたんだ。だから俺たちのリズム・セクションは即席だった。
“Permanent Brain Damage”に参加しているPhilとEricとは数年間一緒にプレイしていた。彼らはHordes of Mungoというバンドをやっていて、彼らにとっては弟とサイトプロジェクトをやっているようなものだったんだ。見る見るバンドが形になっていくのはクールだったよ。
Sabbathカバーだけのギグを何回かやってから、DAVEがオリジナル曲を書き始めた。最初に作ったのが、”Scream Bloody Murder(Veil of Blood)”、その次が”Bullet In My Head”だった。曲を書き始めると俺は、何と言うか、「ちょっと待てよ、これ、すごくいいじゃないか」って感じだった。それからはもう少し真面目に取り組むようになったんだ。
俺たちがオリジナルをやり始めた頃は、みんなを怒らせて、フラストレーションを発散させる良いやり方に思えた。
25年を経た今でも、パワフルなサウンドとDAVEのクールなリフを楽しんでいるよ。
DAVE
Black SabbathとSaint Vitusが俺たちに火を付けたんだ。俺たちの作曲・演奏にダイレクトに影響を与えているよ。それと、60,70年代のロック、Hendrix, Blue Cheer, Cactus, BOC, Mountain, Hawkwind, Dust, Grand Funk, Bloodrock, James Gang, Johnny Winter, ZZ Top, Buffalo ――俺たちとは異なるサウンドだけど、当時も今も彼らは俺たちのお気に入りだ。
――最近はどんなバンド/ミュージシャンのアルバムを聴いていますか?
ELI
俺は60,70年代の音楽の無限のサイクルにハマってるんだ。今はDamnation of Adam Blessingをまたよく聴いている。
俺が最後に素晴らしいと思った新譜はGates Of Slumber ― “The Wretch”だ。Ogreの新作もグレイトだね。
DAVE
同感だ。Gates of Slumber – “The Wretch”は素晴らしいアルバムだね。Ogre – “The Last Neanderthal”も大好きだ。
俺はSIEGE、NightstickのRobert Williamsとよく一緒に過ごすんだ。だから(Nightstickの)“Blotter” と“Death To Music”はずっと聴いているよ。
Grindhouse Releasingが『食人族』のサウンドトラックのリマスターCDを発売したから、Riz Ortolaniの素晴らしい音楽もよく聴いている。
――読者に何かおススメはありますか?
ELI
今の時点だと、俺がおススメできるようなものはないな。最近は何でも簡単にアクセスできてしまうからね。
昔はヘヴィな音楽にハマってるヤツや、誰も知らないようなバンドを見つけるのはとても難しかったけど、今ではすべてがダウンロード、ストリーミングできてしまう。
俺が出会った二十歳のキッズは俺と同じぐらいバンドを知っていたよ。だから、俺が誰も聴いたことがないバンドを教えてあげられるとは思わないな。
DAVE
もしBlood Farmersのファンで、他の作品を聴きたいと思っているなら、俺はThe Disease Conceptと“Liquor Bottles and Broken Steel” EP、“Your Destroyer”. LPを作ったんだ。それから、PATAC RecordsのBlowflyというバンドの“Black in the Sack”という作品にThe Meatmen、俺たちの友人で偉大なSludge, DoomバンドFistulaのメンバー、Tesco Veeと一緒に”黒い安息日”をプレイしている。
――“Blood Farmers” と “Permanent Brain Damage”はLeaf Hound Recordsから再発されましたが、これはどのような経緯だったのですか? Daveは“Bullet In My Head”が大嫌いで、アルバムから外したがったという話を読んだことがあるのですが。
DAVE
いや、嫌ってなんかいないよ。俺が書いたんだから! どこでそんな話読んだんだ?
俺たちはこの曲を三回レコーディングして、2枚のCDS、デモ、コンピレーションで発表した。
俺はただ、同じことはやりたくないと言っただけだと思うよ!
(編注)ディスクユニオン発行のフリーペーパー『DOOM STONER HEAVY ROCK DISC GUIDE 2008』収録の小林氏へのインタビューにて。以下そのインタビューより引用。
「ギターのデイヴが1st大嫌いで、(中略)曲も“Bullet In My Head”が大っ嫌いで、それを抜かせばリリースするとか言ったりして」
ELI
トレノ・コバヤシが2001年頃に、レーベルを始めるからBlood Farmersのアルバムを日本でリリースしたいと連絡してきた。俺は数年かけて” Permanent Brain Damage”をスタジオで修正していたんだ。俺にとってはミキシングを学ぶためのプロジェクトのようなものだった。
作品が蘇ったのは素晴らしいことだった。おかげで、ダビングされたクソみたいなカセットよりも多くの人の手に渡った。その後、Hellhoundのアルバム(“Blood Farmers”のこと)をオリジナルテープからリマスターした。アルバムを作っていた時は、レコーディングのことは何も知らなかったし、デジタル・オーディオはまだ新しかった。Hellhoundに送ったのが第四世代のオーディオだったとは気付かなかったんだ。
帯とボーナス・トラックの付いたCDを見るのはクールだった。Leaf Hound Recordsは本当に素晴らしかったよ。トレノは俺たちを無名のバンドから世界中で聴かれるようなバンドにしてくれた人物だと思っている。彼が元気でいることを願っているよ。彼がどこにいようとね。
これからという時にレーベルが停止してしまったのはとても残念だ。彼はRise Above Recordsのカタログを手に入れていたし、俺はLeaf HoundとアメリカのRelapse Recordsとの契約の交渉を手伝っていたんだ。
――あなた達はDoom Age Festival出演のため、2008年にOgreと共に来日しましたね。私は東京で拝見しました。何か思い出はありますか?
ELI
日本に行くことはBlood Farmersでやり遂げた究極の出来事だった。バンドを始めた頃は、20年後に日本ツアーをして、今より半分の年齢の時に作った曲をプレイできるなんて夢にも思っていなかった。日本をツアーできたことに今でも驚いているよ。俺たちがやってきたすべての作業、すべての失望にはそれだけの価値があったんだと思わせてくれた。日本で出会った人たちのどんな些細なことでも俺たちには衝撃だったからね。また日本へ行きたいよ。
DAVE
あのツアーでLeaf Hound Recordsのトレノ、Church of Misery, Eternal Elysium, Ogreと過ごせたのは最高の思い出だよ!もっといろいろ覚えていられたらと思うけど、記憶が曖昧なんだ。
OgreのRossとWillは自分達のバンドと同じようにBlood Farmersでもプレイしてくれた。彼らに感謝とクレジットを捧げるべきだな! Rossは俺の従兄だから家族旅行でもあったんだ。
俺は富士山を見て、畏敬の念に打たれたんだ。本当に素晴らしかった。東京での公演は今までで最高の観客とフィーリングで夢中になったよ!
また日本に戻れたらと思うよ。そうすれば、次はもっと多くのことを覚えていられるからね。
――Blood Farmersの次の予定はありますか? ファンはツアーを心待ちにしていると思いますよ!
ELI
また日本に行きたいよ!
俺はResurrection Productionsと共に小さなリイシュー・レーベルを始めているんだ。俺のお気に入りの初期ヘヴィ・ミュージック、Randy Holdenの“Population II”を貴重な写真とデラックス・パッケージでリイシューする。偉大なクラシックや未発表のものまで、色々と控えているよ。
――最後に、日本のファンへメッセージをお願いします。
ELI
俺たちに会いに来てくれたり、CDを買ってくれる全ての人に感謝している。
俺たちの音楽を聞いてくれる世界中の人に感謝しているよ。
DAVE
バンドをサポートしてくれてありがとう! また日本でプレイできる日が来ることを願っているよ!
One thought on “「ドゥームに帰するなら、どんなことでもできるんだ」19年ぶりの新作をリリースした“血まみれ農夫”Blood Farmersインタビュー”
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