Column: Rest In Pain…「10 Great acoustic songs by Doom, Sludge bands/musicians」

2014年07月 著者:梵天レコード

Doom Rock(Metal),Sludge Coreといえば、重い! 遅い!が信条の音楽。

デス・メタルやグラインド・コアと同じくエクストリーム・ミュージックに分類されるジャンルだが、70 年代、もしくはそれ以前のロック、ブルース等に根差している為、ヘヴィさがすべてではない―ルーツ・ロックが根底にあるからこそ、Doom,Sludgeにはアコースティックという、もう一つの魅力的な一面があるのだ。

The Obsessed他のWinoBuzzov.enKirkなど、ドゥーム、スラッジ・バンド / ミュージシャンがアコースティックの活動を行っているケースも多い(この辺は後述)。日本ではEternal Elysiumの岡崎幸人氏が弾き語りライブを行っていることが記憶に新しい。

エクストリーム・ミュージックの歴史は、機材の発達と演者たちによる極限のヘヴィネスの追及の歴史であると言える。
Sunn O))) のライブに行けば”眼玉が震える”程の轟音が体感できるだろう。
だが、然るべき人間の手にかかれば、囁くだけで、アコギを爪弾くだけで、心に迫る “真のヘヴィネス” が生まれるのだ。

去る6月29日に西横浜 Bar El Puenteで行われたアコースティック・イベントに国内のDoom系ミュージシャンが複数参加していたので、そのレポートと併せて今回のコラムでは、アコースティックというDoom,Sludgeのあまり取り上げられることのない一面を紹介していこう。

 

Sad Smile vol.2@ 西横浜 Bar El Puente

一番手は今回のイベントの企画者でもあるInside Charmerの もっさヒロ 氏。

Inside Charmerは、重い! 遅い! 尺長い!というまさに王道ドゥーム。この日はそのInside Charmerでも光るメロディ・センスを存分に生かしたライブとなった。

オリジナル2曲とInside Charmerの曲を1曲披露。 個人的には Wino の弾き語りに近い印象を受けた。

三番手に登場したのが梵天レコードよりリリースしたドゥーム・コンピレーション“All The Witches’ Day”にも参加してくれたスラッジコア・バンドZothiqueのヴォーカル & ギターのシモナカ氏とドラムのウエノ氏(本ライブではギター)。

David Alan Coe – “River”、Hank Williams III – “Gone But Not Forgotten”、中島らも – “いいんだぜ”という、“アウトロー”・アーティストのカバー三曲を披露。

四番手の錐針(すいばり)はオルタナ~シューゲイザーの影響も感じさせるドゥーム・バンドBlack Creek Driveのギタリスト、Kusumi氏と東京のスクリーモ・バンドBackstitchのヴォーカル、蓮理氏のユニットで、この日唯一の女性ヴォーカル。ポップな楽曲を挟みつつも、女の情念渦巻くダークな楽曲を中心とした構成。歌謡曲的なドロドロした感じではなく、オルタナ~グランジ風の乾いた“黒さ”を強く感じた。
この日のライブ動画はこちら。

 

 

10 Great acoustic songs by Doom, Sludge bands/musicians.

Trip Thru Recordsの選ぶDoom, Sludge系バンド/ミュージシャンによるアコースティック・ソングBEST10(順不同)

 

Acid Bath – “Bones of Baby Dolls” from “The Kite String Pops”(1994)

Acid Bathといえば、メロディとヘヴィネスが融合したサウンド(なんてチープな表現!)が魅力ですが、解散後にギタリストのSammy Duetが結成したGoathwhoreとヴォーカルのDax Riggsが結成したバンドやソロを聴き比べると、各人のAcid Bathでの役割が見えて面白いですね。
2ndアルバム収録のアコースティック・ナンバー“Dead Girl”も名曲。こちらはDaxのバンド、Agents of Oblivionのアルバムにロック・ヴァージョンで再録されています。
Daxの書く歌詞も素晴らしいので、是非聴きながら読んで頂きたい。

 

Cathedral – “Solitude”(Black Sabbath cover)from “Masters of Misery”(1997)

フルートを加えた、ComusMellow Candleが大好きなLee DorianらしいアレンジのBlack Sabbathカバー。
何よりLeeのディープな歌声が素晴らしい。

 

Wino – “Adrift” from “Adrift”(2010)

ドゥーム神ワイノ。もはや説明は不要ですね。聴いて咽び泣け!
Conny Ochsとのコラボ盤も必聴。

 

K. Lloyd – “Never Try” from “Solow”(2010)

スラッジコア・バンドBuzzov.enのヴォーカルKirk Lloyd FisherのBuzzo.ven解散後のソロ(Buzzov.enは2010年に再結成)。Buzzov.enとはまた一味違った、やさぐれ感たっぷりの彼の歌声を堪能できるアウトロー・ブルース。Kirkは、Eyehategod, Down, The Mystic Krewe Of ClearlightのJimmy Bower、Soilent GreenのBrian Pattonらと共にサザン・ブルース・プロジェクトK. Lloyd & The Disciplesとしても活動。

 

Waldsonne – “Pain of Senses” from “Wanderer”(2008)

ロシアのヘヴィ・サイケ・ストーナー・バンドThe Re-stonedのギタリスト、Ilya Lipkinが在籍するアシッド・フォーク・バンド。歌っているのはIlyaの奥様Veronika Martynova。The Re-stonedはEarthless辺りを思わせるインスト・バンドだが、Jefferson Airplane – “Today”、Pink Floyd – “Julia Dream”をアシッド・フォーク風にカバーしている(“Plasma”(2013)収録。こちらも歌っているのはVeronika Martynova)。

 Weedeater – “Woe’s me” from “16 Tons”(2002)

Sourvein,Bongzilla,Buzzov.enの“Dixie” Dave Collins(Vocal, Bass)がBuzzov.en解散後に結成したバンド。
バンド名通りの怪しい煙がモックモクのスラッジコアから唐突に現れるブルース・ナンバー。
右手にウィスキー、左手にジョイントを構えて聴きたくなるような一曲。

 

Magnus Pelander – “Stardust” from “Magnus Pelander”(2010)

「これ、60年代の作品じゃないの?」と思わせてしまうほどヴィンテージな作風で衝撃のデビューを飾った、スウェーデンのドゥーム・ロック・バンドWitchcraftのヴォーカル、MagnusがWitchcraft停滞中に発表したソロ。
Witchcraft史上最もサイケ色の強い3rdアルバム”Alchemist”の日本盤ボーナストラックに収録されたRoky Erikson(アメリカのサイケデリック・バンド、13th Floor Elevatorsの元フロントマン) – ”Sweet Honey Pie”のカバー路線をさらに推し進めたような牧歌的アシッド・フォーク。2012年発表のWitchcraftの4thアルバム“Legend”は、一転してメタル色を強めた作品となっている。

 

 

Corrupted – “月光の大地” from “Se Hace Por Los Suenos Assesinos”(2004)

 

 

 

 

 

 

 

仙人が俗世を憂いているかのようなHevi氏の歌声と物悲しいアコギのみで構成された、17分に及ぶCorrupted史上最も異色なナンバー。正座して聴きましょう。
2011年リリースの4thアルバム“Garten Der Unbewusstheit”ではこの曲をアレンジした“Gekkou no Daichi”が収録されている。こちらはアコースティックなのは最初と最後の数分間のみ。

 

Southern Isolation – “Southern Man I Am” from “Southern Isolation” (2001)

Downの“Where I’m Going”にしようかと思ったが、意表をついてこちらで。
Pantera, Down, Superjoint Ritual等のPhil Anselmoと、Philのブラック・メタル・プロジェクトViking CrownNecrophagiaでキーボードを担当していたStephanie Weinsteinによるユニット。Philはプロデュース、作曲はすべてStephanieが担当。 「南部の男(ひと)、その手で私を連れ去って」 「俺は南部の男さ」と惚気るデュエット・ナンバー。いやあ、いいカップルだねえ。離婚したけど。
Philにアコースティックでアルバムを作って欲しいと思うのは筆者だけだろうか。

 

Trouble – “Rain” from “Unplugged”(2009)

初期はドゥームメタルの最重要バンドであり、90年代以降はハード・ロック色を強め、”Manic Frustration”などのマスターピースを創り上げたTroubleのアコースティック・アルバム。この曲は“Manic~”収録曲の再録ヴァージョン。
Eric Wagnerは脱退し、現在のヴォーカルは元Exhorder他のKyle Thomas。Eric WagnerはBlackfingerを結成して活動中。

 

番外編 EXTRA

Doom, Sludgeではないが、その界隈とも繋がりがあるバンド/ミュージシャン。

Hexvessel – “I am The Ritual” from “Dawnbearer”(2011)

ブラック・メタル・バンドDodheimsgard等で知られるイギリス人ミュージシャン、Kvohstを中心に結成されたサイケデリック・フォーク・バンド。Kvohst以外はフィンランド人のメンバーで構成されている。Roadburn Festival 2013内でElectric Wizardがキュレートした“Electric Acid Orgy”に出演、Lee Dorianが絶賛するなどドゥーム系ミュージシャンからの支持が厚い。現時点の最新作”Iron Marsh”(2013)にはPursonのRosalie(オノ・ヨーコのカバー!)、Blood CeremonyのAliaがゲスト参加している。

 

Chelsea Wolfe – “Spinning Centers” from “Unknown Roms: A Collection Of Acoustic Songs”

カリフォルニア出身の女性ゴシック・フォークSSW。
カリフォルニア出身とは思えない、呪術的かつ鬱屈としたサウンドは、“ドゥーム・フォーク”、“メンヘラ・フォーク”とも形容される。
彼女もRoadburn Festival 2012に出演、わが国ではDaymare Recordsが2012年に1st,2ndの国内盤をリリースし、GodfleshSunn O)))Deafheaven等が出演したLeave Them All Behind 2012で来日。

 

番外編その2 EXTRA Part.2

完全なるおフザケ。

Acoustic Wizard – “Vinium Sabbathi” from “Please Don’t Sue Me vol.2”

Electric Wizardの曲をアコースティックでカバーするという、キマってる時に思いついたことをそのままやっているとしか思えないプロジェクト。「お願いだから訴えないで」というタイトルからも明らかなお遊びプロジェクトだが、やってることは至ってマトモ(?)、というか、かなりイイ。

 

Trippy Wicked – “Killfornia” (Church of Misery cover)

英国のストーナー/ドゥーム・バンドTrippy Wickedのメンバー二人がyoutubeにアップしている、アコギとウクレレによるドゥーム/スラッジ・バンドのカバー。チャーチのこの曲以外ではEyehategod, Weedeaterなどをカバーしている。ウクレレが意外とハマっている。

火炎放射器の作り方 君たちも火を手に入れろ!

[:ja]

キャンプに行って火も起こせないような男が増えておるらしいの! 情けない! お前らキンタマついてんのか! 火炎放射器で火を起こせば女にもてること請け合いだから、皆さん作ってみれば? あくまでも自己責任で。(By編集部)

用意するものは、
ライター用の補充ガス:コンビニで数百円で売られているものでOK
透明なチューブ:ホームセンターなどで売られているもの。内径3mm、外径5mmがおそらくベスト。1m百円ほどで買える。長さは用途に応じて好きに。
ワッシャー:これもホームセンターで100円程度で入手可能。内径4mm。外径は好き好き。

わずかこれだけ。1,000円もかかりません。
作り方も超簡単。まずワッシャーをチューブに通す。このとき、ワッシャーの内径がチューブの外径よりも小さいため、そのままだと入りにくい。なのでチューブをあらかじめ斜めに切っておくとワッシャーを通しやすい。あとはチューブをガスの缶に差し込むだけ。これでお終り。

火種に向けてガスを発射すれば立派な火炎放射器だ。コンビニのガス缶でも1m以上の高さの火が出せる。しかもこれ、装置自体が小柄なので、色々なものに仕込んでステージなどで使用可能。ギターのヘッドに仕込んだり、スカルに組み込んだり、アイデア次第で可能性は無限に広がるはず。まだ試したことはないが、コンロ用のガスボンベを使えばもっと大きな火が出せるかも。

今回も当然のことながら、製作はすべて自己責任でやってくださいね。事故や火事、怪我など、一切の責任は負いかねますので。俺はもっと凄い火炎放射器を作れるぞという方は是非ご一報を。

ちょっと不気味なドクロ火炎放射器!
この箱の中に火炎放射器セットが!

 

これら全て買っても1000円以下だよ。
怖い鬼の角から火が1メートルも!
ものすごい勢いで火が!カッコいいぞ!

 

ガスの元。100円ショップで売ってるよ。

これがワッシャー部分。単純な構造です。

 

※本記事はペキンパー第弐号に掲載されたものを再編集したものです。[:en]キャンプに行って火も起こせないような男が増えておるらしいの! 情けない! お前らキンタマついてんのか! 火炎放射器で火を起こせば女にもてること請け合いだから、皆さん作ってみれば? あくまでも自己責任で。(By編集部)

用意するものは、
ライター用の補充ガス:コンビニで数百円で売られているものでOK
透明なチューブ:ホームセンターなどで売られているもの。内径3mm、外径5mmがおそらくベスト。1m百円ほどで買える。長さは用途に応じて好きに。
ワッシャー:これもホームセンターで100円程度で入手可能。内径4mm。外径は好き好き。

わずかこれだけ。1,000円もかかりません。
作り方も超簡単。まずワッシャーをチューブに通す。このとき、ワッシャーの内径がチューブの外径よりも小さいため、そのままだと入りにくい。なのでチューブをあらかじめ斜めに切っておくとワッシャーを通しやすい。あとはチューブをガスの缶に差し込むだけ。これでお終り。

火種に向けてガスを発射すれば立派な火炎放射器だ。コンビニのガス缶でも1m以上の高さの火が出せる。しかもこれ、装置自体が小柄なので、色々なものに仕込んでステージなどで使用可能。ギターのヘッドに仕込んだり、スカルに組み込んだり、アイデア次第で可能性は無限に広がるはず。まだ試したことはないが、コンロ用のガスボンベを使えばもっと大きな火が出せるかも。

今回も当然のことながら、製作はすべて自己責任でやってくださいね。事故や火事、怪我など、一切の責任は負いかねますので。俺はもっと凄い火炎放射器を作れるぞという方は是非ご一報を。

ちょっと不気味なドクロ火炎放射器!
この箱の中に火炎放射器セットが!

 

これら全て買っても1000円以下だよ。
怖い鬼の角から火が1メートルも!
ものすごい勢いで火が!カッコいいぞ!

 

ガスの元。100円ショップで売ってるよ。

これがワッシャー部分。単純な構造です。

 

※本記事はペキンパー第弐号に掲載されたものを再編集したものです。[:]

重厚音楽考察「ホラー映画サウンドトラックの系譜に連なる中森明菜」

[:ja]

文・川嶋未来(SIGH)

「エクソシスト」。ホラー映画史上に燦然と輝く名作である。1973年制作、公開されるや否や全米だけでなく、ここ日本でも大旋風を巻き起こした。アメリカでは18歳未満は鑑賞禁止の措置がとられたというが、これはホラー=内容が残酷ということよりも、主人公の少女が十字架を自分の股に突き刺すなど、クリスチャンの目からしたら到底許容し難い描写が原因の一つにあったのだろう。我々日本人のように、単にこの映画を怖い、怖くないで判断することは、キリスト教を社会の規範とする欧米では不可能であったに違いない。

「エクソシスト」 (1973年)

さてそのエクソシスト、映画の内容もさることながら、付随する音楽もまた突出していた。ポーランドのクシシュトフ・ペンデレツキを筆頭に、アントン・ヴェーベルン、ジョージ・クラム、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェと、20世紀を代表するクラシックの作曲家がずらりと並ぶ。本作品は、難解だと敬遠されがちな現代音楽が、いかにホラー映画と相性が良いか、そしてこのような文脈で使用される場合、難解であることが一切問題にならないどころか、むしろプラスの要素たりえるということを証明した。この精神は、1980年公開の「シャイニング」にも継承されている。一方でエクソシストのメインテーマとしては、クラシックの作曲家ではなく、プログレッシヴロック畑のミュージシャン、マイク・オールドフィールド作曲の「チューブラー・ベルズ」が使用された。これはマイク・オールドフィールドや、「チューブラー・ベルズ」というタイトルを知らなくても、あのイントロ・フレーズを聞けば誰もが「ああ、この曲か。」と思うに違いない、心霊番組などの定番のBGMになっている。

「チューブラー・ベルズ」もミニマルミュージックという、やはり現代音楽における一つの手法を用いて書かれている。ミニマルミュージックとは、思いっきり簡単に言えば、物凄く単純な音型を、これでもかとしつこく繰り返す音楽のこと。この強迫的な手法は、実に恐怖という感情を高めるのに適している。マイク・オールドフィールドが、果たして怖い音楽を作ろうという意図を持っていたのかはわからない。だが21世紀になった今でも、「チューブラー・ベルズ」はテレビの恐怖シーンを盛り上げるのに一役買っているのだ。
「チューブラー・ベルズ」がホラー映画音楽に与えた衝撃は大きく、ミニマルミュージック的なサウンドトラックが使用されるケースは増えて行ったのだが、中でも特筆すべきはイタリアのプログレッシヴ・ロック・バンド、ゴブリンによる「サスペリア」のテーマだろう。同じくイタリアのダリオ・アルジェント監督による1977年公開の名作、「サスペリア」のメインテーマは、やはり「チューブラー・ベルズ」同様、ゴブリンを知らなくとも曲を聞けば誰もが知っているという名作。こちらもテレビのBGMの常連だ。

「サスペリア」 (1977年)

 

しかしこれ、良く聞いてみれば(良く聞いてみなくてもだけど)、「チューブラー・ベルズ」を下敷きにしていることは明らか。曲調からメロディラインまで、実に良く似ている。だがそれが、単なるパクリに堕することなく、実にゴブリンらしい消化、肉付けをされているのが見事だ。
アメリカの映画監督、ジョン・カーペンターは監督業だけでなく、自ら作曲までこなす多才な人物。代表作、1978年の「ハロウィン」のメインテーマもジョン・カーペンター自身による作曲。こちらは「サスペリア」のテーマほど露骨ではないが、やはりミニマルミュージック~「チューブラー・ベルズ」の流れを汲んでいると考えて差し支えないだろう。

「ハロウィン」(1978年)

 

ジョン・カーペンターの楽曲は、単純だが実に恐ろしい名曲が多い。1980年の「ザ・フォッグ」のテーマも実に見事。「サスペリア」や「ハロウィン」のテーマと比べると知名度は格段に落ちるかもしれないが、クオリティ的にはこれらに勝るとも劣らない。
さて、ではこれらの系譜に連なる日本のアーティストは誰だろうか。私なら迷わず中森明菜を挙げる。決してふざけているわけではない。1986年にリリースされた通算9枚目のスタジオアルバム「不思議」。聞いてもらえばわかるが、とてもアイドルのアルバムとは思えないような異様で恐ろしい内容の作品だ。

中森明菜「不思議」(1986)

中森明菜「不思議」(1986)

しかも決して偶発的に恐ろしい作品ができあがったのではない。中森自身が「エクソシストの音楽からインスパイアされた」作品であると明言しているのである!「エクソシストの音楽」が「チューブラー・ベルズ」を指していることは明白で、例えば名曲「マリオネット」ののバイオリンなど、随所に「チューブラー・ベルズ」を下敷きとしたミニマルなフレーズが散りばめられている。

中森自身が提案したアルバムのコンセプトはそのものずばり「不思議」。おそらく作曲家陣は「チューブラー・ベルズ」だけでなく、ゴブリンの楽曲あたりも分析、参考にしたのだろう、ホラーファンにはなじみのアレンジ、フレーズが満載だ。そして何よりも異様なのが中森自身のヴォーカル。アイドルのアルバムのはずなのに、中森の声には極端に深いリバーヴがかけられているせいで、定位がやたらと奥に引っ込み、殆ど聞き取ることができないほど。素面で聞くことを前提にしていないのでは、と疑いたくなる。80年代のアイドルのアルバムというと、ヒットシングル数曲+残り捨て曲みたいなイメージがあるが、「不思議」はその対極にある作品。大衆受けする要素ゼロ、かと言って難解かというとそれもまた適切な表現ではなく、最早狂っているとしか言いようがない。

そんな作品にもかかわらず当時、中森のネームバリューもあり、本作品はオリコンチャート3週連続1位を獲得している。購入したファンたちが、どのような感想を持ったのかはまったく別問題ではあるが。それはともかく本作品、そのままホラー映画のサウンドトラックとして使用できるような仕上がり。ホラーファンにこそ是非とも聞いて頂きたい名作だ。[:en]

文・川嶋未来(SIGH)

「エクソシスト」。ホラー映画史上に燦然と輝く名作である。1973年制作、公開されるや否や全米だけでなく、ここ日本でも大旋風を巻き起こした。アメリカでは18歳未満は鑑賞禁止の措置がとられたというが、これはホラー=内容が残酷ということよりも、主人公の少女が十字架を自分の股に突き刺すなど、クリスチャンの目からしたら到底許容し難い描写が原因の一つにあったのだろう。我々日本人のように、単にこの映画を怖い、怖くないで判断することは、キリスト教を社会の規範とする欧米では不可能であったに違いない。

「エクソシスト」 (1973年)

さてそのエクソシスト、映画の内容もさることながら、付随する音楽もまた突出していた。ポーランドのクシシュトフ・ペンデレツキを筆頭に、アントン・ヴェーベルン、ジョージ・クラム、ハンス・ヴェルナー・ヘンツェと、20世紀を代表するクラシックの作曲家がずらりと並ぶ。本作品は、難解だと敬遠されがちな現代音楽が、いかにホラー映画と相性が良いか、そしてこのような文脈で使用される場合、難解であることが一切問題にならないどころか、むしろプラスの要素たりえるということを証明した。この精神は、1980年公開の「シャイニング」にも継承されている。一方でエクソシストのメインテーマとしては、クラシックの作曲家ではなく、プログレッシヴロック畑のミュージシャン、マイク・オールドフィールド作曲の「チューブラー・ベルズ」が使用された。これはマイク・オールドフィールドや、「チューブラー・ベルズ」というタイトルを知らなくても、あのイントロ・フレーズを聞けば誰もが「ああ、この曲か。」と思うに違いない、心霊番組などの定番のBGMになっている。

「チューブラー・ベルズ」もミニマルミュージックという、やはり現代音楽における一つの手法を用いて書かれている。ミニマルミュージックとは、思いっきり簡単に言えば、物凄く単純な音型を、これでもかとしつこく繰り返す音楽のこと。この強迫的な手法は、実に恐怖という感情を高めるのに適している。マイク・オールドフィールドが、果たして怖い音楽を作ろうという意図を持っていたのかはわからない。だが21世紀になった今でも、「チューブラー・ベルズ」はテレビの恐怖シーンを盛り上げるのに一役買っているのだ。
「チューブラー・ベルズ」がホラー映画音楽に与えた衝撃は大きく、ミニマルミュージック的なサウンドトラックが使用されるケースは増えて行ったのだが、中でも特筆すべきはイタリアのプログレッシヴ・ロック・バンド、ゴブリンによる「サスペリア」のテーマだろう。同じくイタリアのダリオ・アルジェント監督による1977年公開の名作、「サスペリア」のメインテーマは、やはり「チューブラー・ベルズ」同様、ゴブリンを知らなくとも曲を聞けば誰もが知っているという名作。こちらもテレビのBGMの常連だ。

「サスペリア」 (1977年)

 

しかしこれ、良く聞いてみれば(良く聞いてみなくてもだけど)、「チューブラー・ベルズ」を下敷きにしていることは明らか。曲調からメロディラインまで、実に良く似ている。だがそれが、単なるパクリに堕することなく、実にゴブリンらしい消化、肉付けをされているのが見事だ。
アメリカの映画監督、ジョン・カーペンターは監督業だけでなく、自ら作曲までこなす多才な人物。代表作、1978年の「ハロウィン」のメインテーマもジョン・カーペンター自身による作曲。こちらは「サスペリア」のテーマほど露骨ではないが、やはりミニマルミュージック~「チューブラー・ベルズ」の流れを汲んでいると考えて差し支えないだろう。

「ハロウィン」(1978年)

 

ジョン・カーペンターの楽曲は、単純だが実に恐ろしい名曲が多い。1980年の「ザ・フォッグ」のテーマも実に見事。「サスペリア」や「ハロウィン」のテーマと比べると知名度は格段に落ちるかもしれないが、クオリティ的にはこれらに勝るとも劣らない。
さて、ではこれらの系譜に連なる日本のアーティストは誰だろうか。私なら迷わず中森明菜を挙げる。決してふざけているわけではない。1986年にリリースされた通算9枚目のスタジオアルバム「不思議」。聞いてもらえばわかるが、とてもアイドルのアルバムとは思えないような異様で恐ろしい内容の作品だ。

中森明菜「不思議」(1986)

中森明菜「不思議」(1986)

しかも決して偶発的に恐ろしい作品ができあがったのではない。中森自身が「エクソシストの音楽からインスパイアされた」作品であると明言しているのである!「エクソシストの音楽」が「チューブラー・ベルズ」を指していることは明白で、例えば名曲「マリオネット」ののバイオリンなど、随所に「チューブラー・ベルズ」を下敷きとしたミニマルなフレーズが散りばめられている。

中森自身が提案したアルバムのコンセプトはそのものずばり「不思議」。おそらく作曲家陣は「チューブラー・ベルズ」だけでなく、ゴブリンの楽曲あたりも分析、参考にしたのだろう、ホラーファンにはなじみのアレンジ、フレーズが満載だ。そして何よりも異様なのが中森自身のヴォーカル。アイドルのアルバムのはずなのに、中森の声には極端に深いリバーヴがかけられているせいで、定位がやたらと奥に引っ込み、殆ど聞き取ることができないほど。素面で聞くことを前提にしていないのでは、と疑いたくなる。80年代のアイドルのアルバムというと、ヒットシングル数曲+残り捨て曲みたいなイメージがあるが、「不思議」はその対極にある作品。大衆受けする要素ゼロ、かと言って難解かというとそれもまた適切な表現ではなく、最早狂っているとしか言いようがない。

そんな作品にもかかわらず当時、中森のネームバリューもあり、本作品はオリコンチャート3週連続1位を獲得している。購入したファンたちが、どのような感想を持ったのかはまったく別問題ではあるが。それはともかく本作品、そのままホラー映画のサウンドトラックとして使用できるような仕上がり。ホラーファンにこそ是非とも聞いて頂きたい名作だ。[:]

レジェンド―写真家松下弘子ライヴ写真集

[:ja]

2014年01月21日 著者:ペキンパーデジタル 編集部

『ペキンパー第4号』で特集した東京パンク・シーンのゴッド・マザー、ハードコアパンクライブカメラマン松下弘子さんの、第三弾にして最後の写真集『レジェンド』が先日リリースされた!

『ハードコア』(’99)、『Flash』(’08)※共に絶版。現在はプレミアが付いている。に続く5年ぶりとなる本作だが、発売に至るまでには紆余曲折があった。

「喜寿である77歳に、3冊目の写真集を出したい」――
松下さんの願いを叶えるべく、2012年7月から月に1回、およそ1年にわたり、高円寺MISSION’Sにてベネフィット・ライブ「ROAD TO 松下弘子 写真集への道」が開催された。当初は平日開催ということもあり赤字続きだったのだが、なんと最終的には目標の120万円を大きく上回る139万円が集まったのだ。

叫び、笑い、跳躍し、縦横無尽に駆け回る人々。熱気と衝動、肉体と轟音のせめぎ合いの中、松下さんが骨粗鬆症による背骨の圧迫骨折の痛みをおして撮影した写真は、東京のパンク・ハードコア、ひいては日本の地下音楽シーンの最も鋭く尖った部分を見事に切り取ったものだ。

“レジェンド(伝説)”というタイトルがこれほど相応しい作品は他にないだろう。
一見カオス(混沌)そのものだが、そこには確かにポジティヴなエネルギーが存在している。

バンド、観客、そして撮影者の愛に満ち溢れている。

そもそもロックとは、元来ポジティヴなものではなかったか。振り向かず、前進し続けることこそ真のロックだと『レジェンド』は語っている。当サイトの読者に是非おすすめしたい一冊だ。

松下氏の経歴に興味をもたれた方は、併せて『ペキンパー第4号』も読んでいただくと、より深く理解が得られるはずだ。


レジェンド―
写真家松下弘子ライヴ写真集
品番

発売日
2014/01
詳細

現代野獣派ダンディズムのブルータルマガジン!
世界最高峰ロックンロール・バンド、モーターヘッドを総力特集!


ペキンパー第4号
品番
BTB-004
発売日
2013/10/18
詳細

総力特集!パンクっていったい何?カルチャーとしてのパンク論。日本のパンク
遠藤ミチロウ、ロングインタビュー[:en]2014年01月21日 著者:ペキンパーデジタル 編集部

『ペキンパー第4号』で特集した東京パンク・シーンのゴッド・マザー、ハードコアパンクライブカメラマン松下弘子さんの、第三弾にして最後の写真集『レジェンド』が先日リリースされた!

『ハードコア』(’99)、『Flash』(’08)※共に絶版。現在はプレミアが付いている。に続く5年ぶりとなる本作だが、発売に至るまでには紆余曲折があった。

「喜寿である77歳に、3冊目の写真集を出したい」――
松下さんの願いを叶えるべく、2012年7月から月に1回、およそ1年にわたり、高円寺MISSION’Sにてベネフィット・ライブ「ROAD TO 松下弘子 写真集への道」が開催された。当初は平日開催ということもあり赤字続きだったのだが、なんと最終的には目標の120万円を大きく上回る139万円が集まったのだ。

叫び、笑い、跳躍し、縦横無尽に駆け回る人々。熱気と衝動、肉体と轟音のせめぎ合いの中、松下さんが骨粗鬆症による背骨の圧迫骨折の痛みをおして撮影した写真は、東京のパンク・ハードコア、ひいては日本の地下音楽シーンの最も鋭く尖った部分を見事に切り取ったものだ。

“レジェンド(伝説)”というタイトルがこれほど相応しい作品は他にないだろう。
一見カオス(混沌)そのものだが、そこには確かにポジティヴなエネルギーが存在している。

バンド、観客、そして撮影者の愛に満ち溢れている。

そもそもロックとは、元来ポジティヴなものではなかったか。振り向かず、前進し続けることこそ真のロックだと『レジェンド』は語っている。当サイトの読者に是非おすすめしたい一冊だ。

松下氏の経歴に興味をもたれた方は、併せて『ペキンパー第4号』も読んでいただくと、より深く理解が得られるはずだ。


レジェンド―
写真家松下弘子ライヴ写真集
品番

発売日
2014/01
詳細

現代野獣派ダンディズムのブルータルマガジン!
世界最高峰ロックンロール・バンド、モーターヘッドを総力特集!


ペキンパー第4号
品番
BTB-004
発売日
2013/10/18
詳細

総力特集!パンクっていったい何?カルチャーとしてのパンク論。日本のパンク
遠藤ミチロウ、ロングインタビュー[:]

ロシアトランス紀行

文・川保天骨

※この記事は「ペキンパーVol.3」に掲載されていたものです。

今回の付録DVDには俺がロシアのトランスパーティーに潜入して撮影した映像が入っている。しかし、そもそもトランスパーティーって何?という人もいるだろうから、俺が自分の体験を交えてここでトランスするとは何かという事を少し書いてみます。

 

初めてのトランス体験

今から約15年前の1997年、初めて俺はトランスしたんだよ。その頃はまだインターネットも普及してないし、パソコンも一般的ではない時代だったけど、幕張メッセで行われた日本初の大規模なトランスパーティー、『オーロラサイケデリカ』には相当な数の観客が殺到していたね。当時ハードロックやメタルを好んで聴いていた典型的なロック青年としての俺はテクノ系の音楽は“打ち込み”とか呼んでバカにしてたもんだよ。あんなのはフ抜けたようなヤワな奴が聴く音楽だと思ってたからね。全く気が進まなかったけど、その時の友人Kがどうしても行こうと強引にこのパーティーに俺を連れて行った。そして俺は勧められるままに幻覚物質を服用し、その1時間後、決定的な変性意識状態を体験する事になる。

人生を変えたトランス体験!

今から思えば、この時の体験は現在俺が推し進めている『デス・エロス・トランス』というコンセプトを追求するコンテンツに大きな影響を与えていると思う。ビートルズの『サージェントペパー』や『ホワイトアルバム』を聴き込んで、さらにピンクフロイドの摩訶不思議な音世界に興味を惹きつけられていた中学から高校時代。サイケデリックという言葉に人一倍敏感な10代だった。上京してからはとにかくサイケデリックロックのCDを大量に買い込んで聴いていたな。しかし、この’97年時点で幻覚物質を摂取してのトランスを体験することにより、これまで信じていたサイケデリックの世界が全く本質ではないという事に気づいたわけだ。俺の知っていたサイケデリックは単なる知識で、なおかつその表層にすぎなかったということだよ。愕然としたね。童貞がセックスして非童貞になった時、「ああ、俺はようやく男になったのか………」なんて感慨にふける事よりもさらに重大な、まさに人生の大きな転換地点といってもいい。それぐらいインパクトが大きな体験だった。目の前で起こる膨大な幻視、そして変質した音。最初それがトランスしている状態である事に気付かなかった。幕張の壁に大写しされたCG映像の前に茫然と立ち尽くして見入っていた時、誰か知らないが女性が近づいてきて、「大丈夫ですか?」と聞いてくる。俺は何も答えられなかった。言葉を失っているのだ。その時、頭の中で「ドカーン」という音がした。俺はトランスしてるんだ!これがトランスというものか!サイケデリックというものは!トリップするという事は!この状態の事なのだ!と悟るわけ。

この時、付き合っていた女もこのパーティーに同行していたのだが、俺と同じ幻覚物質を摂取した後、会場内で俺とはぐれ、一人で椅子に座っていた時、昏倒し、そのまま救護室に運ばれていたらしい。その頃、携帯電話もなく、俺は会場をトランスした状態で彼女を探していたのだが、途中で誰を探しているかもわからないような意識状態、まさに夢の中だ。それでもようやく救護室にいる事が発覚し、俺はトランスした状態で救護室に入った。ベット上に亡霊のような顔をして横たわる俺の彼女を観た瞬間、頭の中で再び爆発音が鳴った。俺はヤバイ!と思い便所に駆け込む。そして口に手を突っ込みゲロを吐こうとした。この幻覚状態から抜け出さないとまずい!という意識が働いていたのだ。おそらく、酒を飲んで酩酊した時に、吐くと多少なりとも意識が戻る事があるが、この時も吐けば少しは意識が正常になると思っていたのだろう。しかし口から飛び散る胃液がすべて星屑のようにキラキラ光る。たまらず目を閉じると真っ白なミルクの海が見え、何百、何千もの目玉がその海から飛び出してくるアニメーションを観る。その後真っ赤な空を飛ぶ幻覚。向こうの方に巨大な黄金の大仏を見る。俺はベットに横たわる女のそばに行き、「ダメだ」となんとか言った。女は虚空を見つめたまま何も語らず。そして「大丈夫か?」と聞くと首を縦に振る。「大丈夫………」こういう夢の中にいるようなトランス状態でも意識はありありとある。酒を飲んで酔っ払うと記憶さえも曖昧で、時には完全に記憶喪失状態になるものだが、トランス状態では記憶が鮮明だ。俺はその時「まあ、大丈夫だろう。救護室だし………」とかなりいい加減な判断をし、少し肩の荷が下りたような気がして救護室から出た。居てもたってもいれなかったのだ。はやく会場に戻らないと!

 

固有の音楽的価値観よりも音の機能性に比重を置く

そして会場に再び戻り、改めてトランスの真っただ中にいる自分に気付くのだった。その時かかっていたような音楽はゴアトランス系ですこしインドの音階のようなものが使われていたと思う。しかし、もうすでに変質しているそれら音楽は、俺の知っている“音楽”ではなくなっていた。この時から俺にとっての“音楽”という概念が大きく変わっていく事になるのだが、あれは音楽などという文化的なものではなく、単にトランスを誘発させるための誘引剤としての“音”だ。トランスするための道具としての“音”の存在に俺は気付いたのだ。テクノは確かに音楽というジャンルのひとつだが、その本質は人間をトランスさせるための“道具”でしかない。音楽を鑑賞するものではなく、身体で感じる振動のようなもの。そこにあるのは音楽的芸術性ではなく、機能だ。多くの音楽ジャンルが固有のアーティストから生み出される固有の曲で成り立つのに対し、レイブやトランス系パーティーではDJによって作り出される“上げ、下げ”でしかない。それ以外むしろ必要ないと言っていいかもしれんな。実際、その後何度もトリップするような状況に自分を追い込んでいくのだが、音楽はむしろ邪魔だったよ。

バットトリップによる反動を使う

それまで自分自身を形成していた既成概念、価値観がひっくり返ってしまった俺はこの日を境に完全にアチラ側の世界に惹きつけられていく事になる。『太陽肛門』なんていうバンドもやってはいたが、もう何か茶番のような気がしてしまった。それでも音源やライブはこなしていたが、やはりもう心がバンドから離れていたことは確かだった。完全にトランスする事に関心が移っており、1か月に1回は必ずレイブに行くようになっていた。俺はトランスする事によって、丸裸の自分、俺の存在の核心部分に迫って行きたかったんだよ。

当時よく行っていたのは『イクイノックス』という300人から500人規模の大きめのパーティーで、それ以外はほとんどがイスラエル人がやっているようなアングラのパーティーだった。とにかく当時はネットがないので、情報は手のひらサイズぐらいの小さなフライヤー、もしくは口コミの情報だけだった。どういういきさつで主催者がああいうレイブをやっているのか分からなかったが、そういうキャンプ場にバカでかいスピーカーを何台も持ち込んで、大音量でトランスを流すエネルギーは今考えても凄いと思う。一度などスピーカーの前で完全に金縛り状態になった事がある。その時聴こえていたのは音ではなく、鉛のような質量をもつ物体で頭を殴られているような感覚を思えたものだ。そしてトランス状態を何度も経験してくるうちに、こういう状態でも自分の意識がしっかりあり、ある程度のコントロールが出来るということを俺は悟ったんだよ。そしてさらなる高みに上り詰めるためにありとあらゆる事をやるわけだが、ひょんなことから、一度バットに落ちると、その反動でさらにブッ飛ぶという法則を発見した。それからは意識してバットトリップをするようになったね。そのバットから抜け出る時の猛烈な上昇感を得るという事を頻繁にやるようになる。貪欲なんだね。

意志の弱い奴は近寄らないでね!

ここまで読んで、『このオッサン、ナニを言っとるのかさっぱりわからん!』という人もおるやろ。トランスした事のない人間に、トランスを説明するのはかなり難しいよ。その人の想像を超えているし、言語の世界じゃないからな。セックスした事ない人にセックスの外側、その表層を伝えることはできるかもしれないが、核心部分は伝わらないように、トランスには説明のつかない部分が多いよ。

もちろん、レイブに来ている人全部がトランスしているわけではない。トランスするのはほんの一部で、全体の10パーセントから20パーセントぐらいだろう。商業的な規模で行われるレイブは前半に有名アーティストのライブやなんかをブッキングして集客し収益を得ているわけだが、トランス目的のレイバーはそんなライブの時はまだ会場に来ていなかったりする。DJもそういう一般の客が会場を埋めている時は音楽的なテクノをかけてお茶を濁している場合が多いのだが、そういう客はだいたい深夜2時ぐらいになると自分のテントに帰って寝てしまう。そりゃあキメてないんだから当たり前だろ。眠いんだよ。俺なんかは「も~、早くライブとか終わって欲しいな~」とか思ってる口だったな。早く飛びたいんだよ。夜が明けて空が白みがかって周りが見えるようになる頃は完全に変性意識状態にいる自分、そしていつものトランス野郎たち狂ったように踊っている光景を目の当たりにするわけだ。前日に雨が降ったりして地面がぬかるんでいたりすると上半身裸でドロドロになって踊り狂う奴とかもいて、原始人の祭り状態になる。こんな事が現代に行われていいのかというような事が目の前で繰り広げられるわけだよ。

身体の調子や精神的にもベストコンディションでそういう変性意識状態にいて、ちょっとした意識コントロールが出来れば、自分が人間である事さえも忘れ、そこら辺のミミズや微生物、さらには地球そのものだった自分、そして宇宙へと還っていく意識体を確認する事も可能だよ。でも、これは誰もが出来る事ではない事は確かだ。俺は大丈夫だった。空手で鍛えてたからな!修行が足りん奴はそのまま社会復帰できない状態になるから気をつけろ!まず、会社辞める。まがいもののエクスタシーに手を出す。そのうち覚せい剤か?コカインか?死ぬか自殺!あの世で会いましょうという事になる。ワカッタカ!

ロシアのトランスパーティー映像

今回、付録のDVDに収録した映像は俺がまだ30代の半ばだった頃の映像だ。観たら分かると思うが幻覚剤は使用していない。酒を飲んで酔っ払ってパーティーに行って楽しんでいる様子だ。この時行ったロシアのパーティーはかなり商業的なもので、ホンモノではなかったが、酔っ払って行くにはちょうどいい感じだったな。かかっている音はかなり古めで、来ている人間も一般人が90パーセント。ダークトランスなど、トランス系では先進国のロシアだが、何しろそういう極秘パーティーに参加するにはそれなりの情報とコネクションが必要だろう。俺はもう20代後半以降、一切幻覚剤を摂取する事は止めた。もうあの世界の事、存分に知ってるんだからリスク犯してこれ以上見る必要もないしね。サイケデリックトランスについては、かつての記憶だけで十分。幻覚剤については、未熟な若者が調子こいてぶっ飛んで事件に巻き込まれるような事は本当に腹が立つ。エクスタシーについては俺は本当に怖いと思うよ。みんな、気をつけろよ!
今後、南米などのトランス状況には興味があるので、そういうトランス紀行を考えてもいいかなと思ってるよ。

(つづく)